株式の権利について

株式会社の経営者にとって株式に関するルールは必ず知っておくべき事項となります。特に事業承継のタイミングに備えてご自身でもポイントを押さえて把握しておくべきですし、信頼のおける税理士や中小企業診断士等に相談できる環境を持つことをお勧めします。

 目次

1.株式シェアと議決権

議決権とは、株主総会での決議に参加して票を入れることができる権利のことで、一般的には1単元株に対し1つの議決権が与えられます。株主総会では、会社の運営や資産の使い方などの重要な事案が決められます。このときに事案に対して議決権を持つ人が賛成、反対の票を入れますが、票の数は1人1票ではなく、株の保有数に応じて決まります。総会に出席できない場合は、ハガキで投票することもできます。最近ではインターネット上で議決権が行使できるシステムも採用されています。

特別決議

株式シェアを2/3以上持っていると、株主総会の特別決議を単独で成立させられます「特別決議」とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行う決議のことです。よって、残り3分の1の議決権を持っている株主が反対するために全員出席したとしても、すべての議決権の3分の2以上を保有していれば、決議できるというわけです。したがって、経営者は自分あるいは自分の身内と合わせて2/3以上を確保しておかなくてはななりません。そして、なるべくならば個人単独で2/3以上保有することが望ましいです。子供や妻が結託してクーデターを起こしたケースもあります。なお、特別決議を要する議題は下記の通りです。

  • 株式併合
  • 募集株式の事項の決定
  • 募集株式の事項の決定の委任
  • 株主に株式の割当てを受ける権利を与える場合
  • 募集株式の割当て
  • 累積投票により選任された取締役の解任
  • 監査役の解任
  • 資本金の額の減少
  • 定款の変更
  • 事業の全部の譲渡
  • 事業の重要な一部の譲渡
  • 事業の全部の譲受け
  • 事業の全部の賃貸
  • 事後設立
  • 解散
  • 解散した会社の継続
  • 会社法第5編の規定により総会決議を要する場合
  • 合併・会社分割、吸収合併契約等の承認等
  • 吸収合併契約等の承認等
  • 新設合併契約等の承認
  • 株式交換、株式移転

普通決議

株式シェアを50%超持っていると、株主総会の普通決議を単独で成立させられます「普通決議」とは、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数に当たる多数をもって行う決議のことです。よって、残り2分の1の議決権を持っている株主が反対するために全員出席したとしても、すべての議決権の2分の1超を保有していれば、決議が可能です。

  • 株主総会の議長の選任
  • 資料等の調査をするものの選任
  • 会計参与。及び会計監査人の解任
  • 会社・取締役間の訴訟における会社の代表者の選任
  • 役員及び清算人の報酬決定
  • 役員等の競業取引の承認・利益相反取引の承認
  • 会計監査人に対する総会出席要求
  • 特定の株主との取引によらない、株主との合意による自己株式の取得
  • 株式無償割当てに関する事項の決定
  • 計算書類の承認
  • 清算中の株式会社の貸借対照表の承認
  • 清算結了時の決算報告の承認
  • 資本金の額の減少(定時株主総会における欠損填補のためにするとき)
  • 準備金の額の減少
  • 剰余金の額の減少
  • 損失の処理、任意積立金の積立てその他の剰余金の処分
  • 剰余金の配当

株主全員の同意を要する事項

株主全員の同意を要する事項は、定款変更を要するものばかりであるため本来は特別決議を要する事項となります。しかし、これらの事項は特別決議で議決可能とすると株主の地位を脅かす蓋然性が著しく高い為、最も困難な決議要件を要するとされています。


株主全員の同意を要する事項一覧(主なもの)

  • 発起人・役員等・業務執行者等の責任の全部の免除
  • 発行する株式の全てに取得条項の設定・変更をする定款変更
  • 会社が特定の株主からの自己株式取得をする際に、特定の株式に自己をも加えたもの議案とする事を請求できると言う16条2項3項の規定を排除する定款の定めの設定・変更
  • 組織変更
  • 新設合併設立会社が持分会社である場合の、新設合併消滅株式会社の新設合併契約
  • 対価の全部又は一部が持分等となる合併又は株式交換の承認

2.名義株主への対応

株式の中でも名義株式の問題は特にやっかいです。名義株式というのは、1990年の商法改正以前に設立した会社に特に多く見られます。以前は、株式会社を設立する際に発起人が最低7名必要とされていたため、多くの経営者が知人友人に頼み込んで名義を貸してもらう替わりに、お金を用意して振り込んでもらっていました。その後、名義変更しないまま長年放置されている状態が名義株式と呼ばれる状態です。こうした原因以外にも、株主名簿の書換えが行われていないとか、過去にあった贈与や売買が有耶無耶になってしまっているなど理由は様々です。

名義株式のリスク

  • 名義株主に相続が発生することで、見知らぬ人が権利を主張してくる
  • 真実の株主に名義を書き換えしたら、贈与と認定され贈与税が課される
POINT

当事者双方が話し合いのできるうちに峻別しておくことが重要。

生前に名義変更または承諾書などに署名押印をもらう。併せて印鑑証明書を添付してもらう。

3.株主に相続が発生した場合

株主に相続が発生した場合も大変です。中小企業のように、資本金が小さい会社の株式が自由に売買されてしまうと、少ない元手でも会社乗っ取りが簡単にできてしまうので、安心して経営に集中することができません。そこで、多くの会社は定款に記載することにより株式を勝手に売買できないようにしています。ところがたった1つだけ、この条文を設けても、株式の所有権が変わってしまう場合があるります。それが相続です。


きちんと遺言を書いておいて、経営者の死亡と共に、株式が後継者に相続されるようになっていればいいのですが、急逝したり、あるいは何とかなるだろうとたかをくくっていると、経営に関係のない親族が株式を保有することになり、後々、会社経営が混乱する場合があります。

この問題は、大株主である経営者だけでなく、少数株主も同じです。少数株主は、ほとんどが経営者と何らかの関係性(友人・知人・元従業員・お世話になった人・先輩後輩など)があって株式を保有しています。それが相続と共に経営者と面識のない人に渡ってしまうと、そのまま保有してもらっている分には構わないのですが、突然、株式を買い取ってほしいと要求されてしまうケースが勃発します。その場合は急いで買い取り資金を手当てしなければならなくなります。そこで、こうしたトラブルに巻き込まれないための防止措置として、定款の中に相続時の売渡請求権という文言を入れる方法があります。

記載例

(相続人等に対する株式の売渡し請求)
第○条 当会社は、相続その他の一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。

なお、売渡請求を実際に行う場合には幾つか注意事項があります。請求期限、売買価格、財源規制などが主なものとなります。また何よりも重要なのは買い取るだけの資金を用意することです。無い場合は借入金や保険の解約等で対応することが考えられます。

自社の会社の先代経営者が先に亡くなった場合

この場合、上記の規定を逆手にとって、後継者である自分が株主総会によって相続した株式を会社に買い取られるという本末転倒なことが起きる可能性があります。これは、“特別利害関係者は決議に加わることが出来ない”(会社法175条2項)という規定に基づくため、相続した株主が議決権を行使できないためです。このリスクがあるため、この規定が使い難いといわれている部分があります。

しかし、このことを防ぐための手段もあります。

POINT

完全無議決権株式の活用

黄金株式の活用

定款への規定を相続後に行う

定款に売渡請求を出来る条件の詳細を盛り込む

相続ではなく遺贈にすることで回避

こうした方法をさらに応用させると、譲渡制限株式を活用する方法もあります。譲渡制限株式とは、その株式を譲渡しようとする場合には会社の承認を必要とすることを定款で定めた株式のことをいいます。譲渡を承認する機関は、原則として、取締役会を設置しない会社では株主総会が、取締役会を設置する会社では取締役会が務めることになります。株式の譲渡制限については、定款で次の事項を定めることが認められるなど、柔軟な制度設計が可能となります。

完全無議決権株式、黄金株式、譲渡制限株式の詳細は7へ

4.株券を発行している会社

株券を発行している会社も厄介です。会社法が変わり株券の不発行が原則となりましたが、あくまでも原則なので、定款上に「当会社は株券発行会社とする。」と入れておけば発行が原則となります。

たとえ株券発行会社でも、株主から請求がなければ発行しなくても「不発行通知書」を送ることで代用できますが、発行請求されると、会社側は発行する義務が発生します。そうすると、発行コストと手間がかかるし、株券の管理・盗難・紛失のおそれが出てきます。そして、もっともやっかいなのは、「善意取得」と言われている事態です。

株券保有者から株式を取得した者は善意・無過失で株券の交付を受けたのであれば、例え譲渡制限の条文が定款にあったとしても、その株式の権利を取得できてしまいます。そして会社に対して「承認するか否かの決定をすること」を請求してきたとすると、これに対して会社がこの株式取得を承認しない決定をする場合には、①会社が対象株式を買い取るか、②指定買取人を指定することを請求するか、の2つになります。つまり、株式所有者の思惑通りになってしまいます。

この他にも、経営承継円滑化法における特例税制を活用する際に、猶予される税額および利子税に見合う担保を提供するために、株券発行会社の場合は株券を実際に発行して供託しなければならないなど、煩わしいことが起きる可能性があるため、株券不発行会社へ早期に移行することが望ましいです。

POINT

臨時株主総会を開催します。特別決議で株券不発行会社へ定款変更を行う旨の決議をし、その場で効力発生日を定め、その後に(同日でも可)官報で『株券廃止公告」を行います

定款の変更ポイントに関してはお問合せ下さい。

5.問題のある株主・仲の悪い株主

普段は特別悪い関係ではないが、株主総会に出てきて文句を言うだけでなく、経営陣に対する罵署雑言を浴びせたり、株式買取り請求をしてきたり、あるいは逆に総辞職を提案したりする株主がいるとなると無視することはできません。

お金で解決出来ればいいですが、お金では動かない株主となると難しい問題となります。特に恨みや妬みの心理状態から、嫌がらせをすることに生きがいを見出しているというタイプの株主だと正攻法では難しいことが予想されます。

POINT

相手の株主が1/3以下であるという条件付のもと、「全部取得条項付種類株式」を活用して、強制的に買い取る方法

・特別決議で定款変更をして、種類株式発行会社に移行する

・既存の「普通株式」全てに、「全部取得条項」を付ける定款変更の決議を行う

・「全部取得条項付種類株式」を、会社が普通株式を対価として取得する株主総会決議を行う

同じような効果を引き出す方法として、「株式併合」という方法もあります。なお、「単元株制度」を導入して議決権を奪う方法では、配当を受ける権利や残余財産分配権、単元未満株式の買取り請求権、株式無償割当を受ける権利、定款・株主名簿の閲覧請求権、は奪うことはできません。その意味では、全部取得条項付種類株式を使う方法(もしくは、株式併合)の方が優れているといえます。

なお、1/3超の株主は本当に排除することがやっかいです。ただし、定款の記載内容によっては相手の株式シェアを1/3以下まで落とすことも出来なくはありません。

また、90%以上の株式を保有している場合はキャッシュアウト制度により、取締役会だけで全部取得条項付種類株式を使った1/3以下の少数株式排除(スクイズ・アウト)が可能になっています。あくまでも90%以上を保有していることが条件となります。

6.所在不明の株主

所在不明株主とは、①会社から送る株主総会の招集通知などが5年以上一度も届かず、かつ② 5年以上一度も会社からの配当の受領もない株主(5年以上配当をしていない状態でも可)、を言います。

ただし、株主総会招集通知を所在不明株主に送付していなかったり、あるいはそもそも株主総会をやっていなかった場合は、①の要件を満たさないので、所在不明株主がいることになりません。

会社法第197条には、こうした状況にある株主を、「所在不明株主」とよび、その保有する株式を会社が強制的に買い取る手段として、「所在不明株主の株式売却制度」が定められています。

POINT

所在不明株主あるいは所在不明株主の相続人を捜査し、発見した場合、交渉により株式を買取る方法

判所の手続きにより競売で売却、または裁判所の許可を得て買取る方法

<経営承継円滑化法における特別措置>
令和3年には「経営承継円滑化法」の改正により、代表者の高齢や健康不安等により事業活動に支障が生じており、かつ、一部の株主の所在不明により事業承継にも支障が生じている場合は、国の認定を受けることにより、「5年間の通知・催告」の期間を「1年」に短縮できるようになりました。

7.9つの特別な株式分類とその応用

会社法が施行されたことによって、様々な株式を発行することができるようになりました。下図のように会社法では大きく9つの分類で株式を発行できるとしています。

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名称対象となる
基本的権利
会社法
108条1項

内容
配当優先株式
配当劣後株式
剰余金
配当請求権
1号剰余金の配当につき、優先権付かどうかの株式の種類
残余財産分配優先株式
残余財産分配劣後株式
残余財産
分配請求権
2号残余財産の分配につき、優先権付かどうかの株式の種類
議決権行使条項付株式総会議決権3号株主総会の議題につき、議決権を行使できるかどうかによる株式の種類
譲渡制限株式譲渡処分権4号譲渡による株式の取得につき、会社の承認を要する株式
取得請求権付株式譲渡処分権5号会社に取得せよという権利のついた株式
取得条項付株式譲渡処分権6号一定の事由が発生すると、会社のほうから強制的に取得できる株式
全部取得条項付
種類株式
譲渡処分権7号株主総会決議で会社が全部を取得できる種類株式
拒否権付種類株式総会議決権8号黄金株ともいい、株主総会決議等にノーといえる権利をもった種類株式
取締役・監査役選解任権付
種類株式
総会議決権9号種類株主総会で取締役又は監査役を選任又は解任できる種類株式
(出所)これが新増減資種類株式だ(中央経済社)

この中でも特にユニークなのが8号の拒否権付株式です。これは別名「黄金株」とも呼ばれる非常に強力な権利を付与
された株式となります。

例えば取締役の選任に関して、他の株主が結託して有力な外部の人間を強引に取締役に選任したとしても、種類株主総会において黄金株たった1株を持って否決すれば、株主総会の決議をひっくり返すことができるという強烈な権限を持ちます。この黄金株は、目的によって代表取締役に持たせたり、逆に後継者に持たせることで下記のような効果を引き出せます。

代表取締役に持たせるケース

後継者に株式を早めに譲りたいが、どうもまだ社長としては半人前であり経験不足だったり、あるいは浅はかな思慮から暴走するという不安が残る場合があります。その場合、この黄金株により重大な経営上の判断ミスを後継者がしてしまいそうになった場合、正しい方向に導くことができます。

後継者に持たせるケース

例えば株主が何十名にも分散していて、買い集めるのが難しいとします。そういった時には、後継者の議決権確保が非常に難しいので、何か不都合な決議がされそうな時は、この黄金株を後継者が使えるように保険をかけておくことが出来ます。もちろん、何もなければ発動する必要はありません。

黄金株ですが、メリットがあるなら使えばいいという意見が聞こえてきそうです。しかしながら、現実的には使いにくいところがあって発行している会社が少ないのが現状です。なぜならば、「拒否」はできるが、自分から進んで何かを決議することができないという中途半端さがあるからです。現実的にはあまり使えないかもしれません。ですので実際には「信託」を使います。信託については別のページで説明します。

8.属人的株式

黄金株だけでなく、もっとユニークな株式があります。それが属人的株式と言われている株式です。属人的株式は、「剰余金の配当を受ける権利」、「残余財産の分配を受ける権利」、「株主総会における議決権」の3つが会社法上明文化されており、「株主ごとに」異なる取り扱いができる株式を指します。

本来であれば、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権は、持株数に準じるのが原則ですが、これを「Aという株主に対する配当や議決権等は○○」「Bという株主に対する配当や議決権は××」というように特定の株主に対して、その持株数に関係なく、剰余金の配当・残余財産の分配・議決権を自由に決めることができることになりました。この「株主ごと」に取り扱いを異にする株式を「属人的株式」といいます。

属人的株式は、株主の属性に付随するものであり、株主の変更の都度、登記をすることは煩雑であることから、通常の種類株式のように登記の必要はありません。そのため、外部の人間が登記簿謄本を見ても、定款を見るまでは属人的株式(人的種類株式)の存在はわからないのです。

属人的株式(人的種類株式)の特性を活かし、以下のような活用が考えらます。

POINT

役員以外の一部の株主にのみ配当を実施する

役員だけに配当を実施する

特定の株主に議決権を集める

なお、一部の株主に対して不平等な取扱いをすることになるので、株主の状況によって導入できる場合・導入できない場合があります。また、属人的株式の導入は、事実上、株主全員に近い同意がないと導入することはできません。この点は株主平等原則の例外として厳しくなっています。具体的には、株主の頭数の半数以上かつ議決権の4分の3以上の賛成が必要となります。

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