目次
1.遺言の必要性
遺言は、被相続人が亡くなる前に、主に財産面の意志表示をしておくことを一般的に指します。もちろん、「兄弟が助け合い母を面倒見るように」と遺言書(世上遺言)に書いても、被相続人の心情を慮り、家族融和を助けるという意味は十分ありますが、法律上の意味は持ちません。
また、遺言は死後に効力が生じるので、その書式、保管方法、亡くなった後の開封作業などに手続きを踏む必要があります。
経営者であれば、自社株式や本社士地・工場建物といった事業用資産など、相続財産のうち大半を後継者である相続人に相続させるケースが多いので、絶対に遺言を書いておくべきです。
しかし、遺言を書けば全て解決するわけではありません。逆に書くことによって余計な争いを生むケースも想定されます。このような場合どうすればよいのか。解決策としてはベタな方法ではありますが、家族で話し合うこと以外にありません。もし、家族会議を開くことに抵抗があるのであれば第三者を介添人として同席してもらうことも検討しては如何でしょうか。
自分の思いを、紙だけでなく言葉でも残す。この2つを実施することが円満な相続に繋がると考えます。
なお、遺言には3つの方法がありますので、以下それぞれご紹介します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言は要件を必ず押さえて書く必要があります。 要件を守っていないと、せっかく書いた遺言書が法律的に無効になってしまいます。
民法968条で定める自筆証書遺言の要件は、「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない 」となっています。 また、訂正の仕方も法律で決まっていますので注意が必要です。
- 遺言者本人が自筆で全文を書く(※ 添付の財産目録以外)
- 作成した日付を正確に自筆で書く
- 戸籍上の氏名をフルネームで自筆で書く
- 名前の後に印鑑を押す
- 訂正には印を押し、欄外にどこを訂正したかを書いて署名する
なお、2020年7月1日から民法改正とは別の制度として「自筆証書遺言書保管制度」が創設されたことで、遺言者が手数料を払って申請をすることで、法務局が自筆証書遺言を保管してくれる仕組みが出来ました。これにより紛失・亡失を防ぐと同時に、他人に破棄されたり、改寅・隠蔽の恐れもなくなりました。さらに相続人等は検認手続きが不要となる上、全国の法務局にある遺言保管所にて、①遺言書保管事実証明書の交付請求、②「遺言書情報証明書」の交付請求、③遺言書の閲覧請求、が出来るようになったため、今後利用する人が増えると思われます。
しかしながら、経営者にはやはり下記の公正証書遺言をお勧めします。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、一般的な自筆証書遺言とは違い、公証役場の公証人が関与して、公正証書の形で残す遺言書です。
具体的には遺言者が、証人2人の立会いのもと、遺言者が公証人に遺言内容を説明して公証人が書面化して読み聞かせ、遺言者と証人がその書面が正確であることを確認して署名・押印し、さらに公証人が署名・押印することで作成します。
自分一人で書く自筆証書遺言に比べると、公証人という法律の専門家のチェックが入り、共同して遺言書を残せるため、遺言内容の確実性があり、遺言の効果も無効になることが少ないという点が大きな特徴です。
特に、特定の誰かに確実に遺産を渡したい、自分の気持ちをきちんと文書で残したいという場合におすすめです。
メリットとしては以下の点が挙げられます。
- 法的に有効な遺言書が作成できる
- 正確に相続財産を把握してもらえる
- 作成に必要な手続きを一任できる
- 相続トラブルを避けられる遺言書を作成できる
- 家庭裁判所で選任された者に遺言執行者を依頼することもできる
このように、公正証書遺言は、第三者である公証人が頼まれて作成する公文書となるため、自筆証書遺言や、後述する秘密証書遺言と違って、遺言の内容に対して、証明力と執行力があり、法的紛争が起こった際にも信頼性に優れているため、経営者が作成する遺言として最も相応しいと言えます。
もちろん、遺言が無効にならないばかりでなく、紛失・偽造を防ぎ、検認の必要もありません。なお、かかる費用としては、専門家報酬、証人手数料などがかかります。
秘密証書遺言
秘密証書遺言のメリットは、その名のとおり、遺言の内容を誰にも知られないということです。
遺言者以外の親族等はもちろん、遺言作成時に関与する公証人も遺言の中身を見ていないため、公証人にも知られることはありません。公証役場にて2人の証人の同席が必要となりますが、公証人同様、2人の証人にも内容を知られることもありません。
しかしながら、遺言書の中身が法的に有効かどうかは自筆証書遺言と同じく担保されないし、公証役場で保管しません。
2.遺産の分割について
最後に遺産の分割方法についてです。
遺産が現金や預金であれば簡単に分割できますが、土地や建物となると分割は容易ではありません。そこで、次のような3つの方法があります。
現物分割
土地・建物は妻に、自社株式は長男に、という分割もあるし、土地・建物、自社株式はすべて1/2ずつ、という分割もあります。前者の分割では価額が公平にならず、後者の分割は一見公平に見えます。
しかし、共有名義になると後々の処理方針に違いが出てきた時揉めることがあります。出来るだけ後者の分割を避けることをお勧めします。
換価分割
不動産などを売却して現金化し、それを相続人で分割します。
ただし、自社株式のように換価できない財産もある場合は難しくなります。会社経営している場合の自社株式は換金できるはずもなく、また換金してしまったら会社の経営そのものが成り立たなくなってしまうので、現実的には非常に難しいです。
代償分割
遺産の全部または一部を現物で相続人に取得させ、その代わりに、他の相続人に不足分を代償金として支払います。この方法も一見すると、いい方法のように思えるが、現金を用意する必要があるので注意が必要です。
この代償交付金の準備には生命保険に加入するのが有効です。しかし、生命保険の死亡保険金はみなし相続財産となります。本来の相続財産に比べて生命保険金が過大で相続人が取得した本来の相続財産以上に代償交付金を支払った場合、本来の財産を超える部分に対して贈与税がかかる場合がありますので注意が必要です。