2019年2月13日に国税庁が突如、全額損金できる生命保険の税務上の取り扱いを見直すと発表しました。そして翌日2月14日のバレンタインデーには、日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命など大手生命保険会社が解約返戻率が50%を超える生命保険の販売を停止しました。
これを保険業界ではバレンタインショックと呼んでおり、節税保険の終焉と騒がれました。
しかしながら、本来の保険の目的を考えると国税庁の発表は正しかったかもしれません。改めて本来の目的であるリスクヘッジを見直し、その上で事業承継におけるメリットをお伝えます。
目次
1.保険によるリスクヘッジを考える
損害保険のリスク
損害保険は、火災保険(含む地震保険)、自動車保険、傷害保険の基本的な商品分野の他に、損害賠償責任を補償する保険があります。
損害賠償責任保険には、PL保険、施設賠償責任保険、使用者賠償責任保険など、業種や事業規模によって様々な保険種類が存在しており、さらには法改正や経済のグローバル化に伴う訴訟リスクの上昇を背景とし、海外PL保険、役員賠償責任保険(D&O保険)、個人情報取扱事業者保険など、その補償範囲は幅広く、保険商品も多岐に渡ります。
特に、事業承継は後継者に経営をバトンタッチするタイミングでの多額の資金作りが欠かせないだけでなく、万が一のために借金を全額返済できるような、倒産リスクを回避する手立てが必要です。そのためにも信頼の出来る損害保険の専門家を選択することが不可欠です。
そこでまず実施するべきことは、保険内容の適正化です。補償の不足や契約の重複がされていないか、適正な保険料となっているかの見直しが必要です。
例えば、火災保険は一定規模以上の施設を保有している会社にとって大きな負担となります。しかしながら、この火災保険は建物の構造や消防設備等の管理体制に基づく割引の他に、保険会社が自動車保険等他の保険を独占したいがために、戦略的な値引きをするという慣習があります。規模にもよりますが、この競争原理によるメリットを享受しない手はありません。
直接売上に貢献しない『守り』のコストである損害保険料は、最優先で見直すべき項目となります。
生命保険のリスク
生命保険は経営者の死亡リスクだけで無く、資金効率の改善や資金繰りにも大きな影響を与える経営上の重要項目です。しかしながら、節税保険として活用していた名残をそのままに実態に合っていない契約を結んでいるケースがみられます。
1.保障内容を確認する
節税が出来る商品に偏っている契約が大半で決算対策は出来ているが、本来の必要保障額からは乖離しているケースがあります。また、企業存続のためと銘打って死亡保障については積極的に勧めるものの、事業承継対策や相続対策まで踏み込んでいない保険契約も多くあるのが現状です。
2.保険の最終目的を確認する
逓増定期保険は解約返戻金のピークが短期間であり、限られた期間にメンテナンスしなければ保険加入によって得られる
はずであった税負担軽減効果を半減させてしまうリスクがあります。
目先の節税だけに気を取られ、将来の出口戦略をないがしろにしたため、保険の解約時に益金処理される事で保険加入のメリットがなくなってしまうケースもあります。更に、役員退職慰労金規程の未整備であったり、間違った経理処理が行われているケースも存在します。
これらのケースをみてみると各種対策のために加入した保険が、本来の目的を果たさない結果となっています。これでは全く意味がありません。
保険のリスクヘッジを見直そう
保険の見直しとは、創業者の属人的要素に依存していた保険契約・リスクマネジメントを、事業承継期において、後継者が経営を担う新しい時代、新しい体制に合わせて最適化することです。
もちろん、最適化と言っても既契約を全て解約し新しい契約に切り替える訳ではありません。特に生命保険は途中解約が不利な場合が多いので、目的を明確にし、既契約の継続も選択肢に含んだ総合的な契約の見直しが必要となります。
保険契約の一覧表を作り、定期的に見直す作業をルーチン化させることが必要です。
2.事業承継に使える保険の仕組み
バレンタインショックによって節税保険の終焉という話しがありました。しかしながら今でも事業承継対策において有効なポイントがあります。
- 掛けた年数に関係なく、死亡時に保険金が即時に支払われるレバレッジ効果
- 受取人を指定し、相続財産から外して受取人固有の財産に出来る宛先効果
- 相続時、<500万円×法定相続人の数>という特別枠による相続税の節税効果
こうした効果により後継者に自社株式や事業用資産を集中的に承継させる以下の対策について有効となります。
1.他の相続人の遺留分への配慮
2.自社株式・事業用資産の買い取り資金の確保
3.相続税納税資金の確保へ
なお、実践内容としては短期的にはレバレッジ効果の大きい定期保険を活用したり、短期や長期では状況に合わせて保険の種類や受取人変更を行うなど、目指すべき出口戦略や会社の置かれている状況に合わせて対応していく必要があります。
3.退職金準備のための保険の活用
2019年7月8日以降に契約する定期保険については、保険期間中の「最高解約返戻率」が基準となり、課税ルールが再設定されました。これにより以前に存在した退職金準備の為の保険は効果が薄くなってしまいました。
しかしながら、今でも事業承継においては役員退職慰労金準備のために保険を活用するニーズがあります。そこで今でも効果のある保険の仕組みとして「養老保険を使ったハーフタックスプラン」をご紹介します。
ハーフタックスプランとは
ハーフタックスプランとは、被保険者の死亡等で途中解約となった場合に解約返戻金を受け取る事ができるプランです。また、保険期間が満期になった場合には満期保険金を受け取れる保障と貯蓄の機能を併せ持った保険です。
ハーフタックスプランの契約形態は下の表のようになります。
契約 | 被保険者 | 死亡保険金受取人 | 満期保険金受取人 | |
---|---|---|---|---|
ハーフタックスプラン | 法人 | 役員または従業員 | 被保険者の親族(遺族) | 法人 |
この場合、満期時保険受取人が法人になっているため満期時には満期保険金を会社が受け取ることができ、被保険者が死亡した場合は死亡保険金を被保険者の親族(遺族)が直接受け取ることができます。
この内、死亡保険金にあたる保険料は全員加入前提であれば福利厚生目的で保険料を支払っていたものとみなすことができ、死亡保険金のための積立(損金)として1/2損金扱いさせることができます。
ハーフタックスプランのメリット
- 保険料の1/2が損金になる
- 退職金支給の損金を、満期保険の利益が負担してくれる
- 解約返戻金の受け取り可能
- 経営者貸付が使える
このように幾つかメリットが挙げられますが、2つ目のメリットは前述した通り役員退職慰労金の対策として使えることを意味しています。
ハーフタックスプランの適用条件
ハーフタックスプラン自体に必要な契約形態はもちろん、従業員の福利厚生としての面があるため従業員の普遍的加入が条件となります。
そのため、実際契約するにあたっては以下の3点を満たす必要があります。
- ハーフタックスプランの条件を満たす契約形態
- 契約には署名と健康診断を提出する
- 従業員は基本的に「全員加入」
なお、従業員の普遍的加入は合理的基準に従っており、普遍的加入と客観的に判断出来る加入実態であればよく、例えば「退職まで期間が短く、保険加入のメリットがない従業員を保険加入の対象から外す」等は合理的基準と認められます。
目安としては、対象者の8割程度が加入していれば税務署に否認される可能性が低いとされていますが、詳細は所轄税務署に確認する必要があります。