本コラムでは事業承継とイノベーションとの関連性について注目し、早くから事業承継に取り組むことの重要性を発信しています。
第1回から前回まで事業承継を考えるにあたって、ベースとなる中小企業と事業承継のおかれている現状やイノベーションの定義に関して説明してきました。
第4回では経営者の年齢によって、新しいことへの取組みや会社の風土がどの程度違ってくるのかに関して実際の数値を基に論じていきます。
第④回 経営者の高年齢化=日本の危機?
1.経営者の年齢と日本経済停滞の関係性
企業は創業者の思いや考えがあって設立され、その思考がベースとなって経営が行われています。そして提供する商品やサービスは当然のことながらお客様にとってメリットや価値があるものを提供し続けてきたからこそ企業は存続出来ています。
しかしながら高度経済成長時代においては、日本全体は安く大量に作ることこそが世の中から求められており、新しく何かを創り出すといったことを深く考えなくても経営が成り立った時代といえます。
当時の経営者が追い求めた変革はインクリメンタルイノベーション(既存の製品・サービスやビジネスプロセスにおいて、小さな改善を繰り返し行っていくタイプの変革)であり、破壊的創造を生み出すイノベーションを追求してきた企業は日本には少なかったことは事実です。
そして、現在中小企業における経営者の平均年齢は70歳を超えています。団塊の世代もまだまだ現役経営者として働き続けています。そうなると必然的に現経営者が高齢の場合、過去の慣習から脱することが出来ず、新たな一歩を踏み出せていない可能性が残っています。
ただし、必ずしも高齢の経営者が全員同じであるわけではありません。稲盛和夫さんや柳井正さんといったスーパーマンも存在するの事実です。(稲盛さん、心よりご冥福をお祈り申し上げます)
ですが、全体的な傾向をみると、ある意味保守的であり新しく何かを創り出すことを強いられてこなかった経営者が多いことは想像できてしまいます。
未だに多くの経営者が高齢のままであり続けることは、ますます日本が世界から取り残される原因の一つであるといっても過言ではありません。
2.経営者年齢による取組みや企業風土の違い
実際に経営者の年齢によって経営に影響を与えることはあるのでしょうか。この問いに関しては各種データが「影響を与えている」と語っています。
影響といっても色々な指標があります。まずは年齢別に新しく何かに取組んだ実績値を見たいと思います。
上記の図は経営者の年齢別に新事業に取り組んだ比率を表しています。高齢の経営者であっても一定数は新事業に対して取組んでいることが分かりますが、それ以上に年代が若いほど新事業への取組みが活発だと見て取れます。
特にコロナ後のアンケートということもあり、業績が落ち込んだ企業が多くありました。その中でも若い世代の経営者がいかに自分の企業を守りたいかという姿勢が見え隠れしているように感じます。
一方で、世の中の半分以上の企業が新事業に取り組んでいない事実にも少し残念さを感じてしまいますが、、、
続いては新しいことを実践することを許容する雰囲気のある企業かどうかを表したのが上図となります。
こちらに関しても経営者の年代が若い程、トライアンドエラーを許容する風土の会社が多いことが一目瞭然の結果となっています。最近ではリーンスタートアップのように製品投入に時間とコストをなるべくかけずに次々と新しいことを試していく手法が主流となっています。
こういった世の中の流れに敏感な若い経営層こそが自社内にも同様の考え方を持ち込み、企業風土の変革が出来ているのかもしれません。
また、googleによって広まった「心理的安全性」といったキーワードもこういった企業風土の醸成には影響を与えているかもしれません。
3.経営者の年齢と企業業績への関連性
ここまでは経営者の年齢別に新規への取組みとトライアンドエラーに対する企業風土をみてきました。やはり年齢が企業の経営に影響を与えていることは間違いない気がします。そして中でも大事なことの一つは業績です。どんなに素晴らしい取り組みをしていても儲かっていなければ企業は存続することは出来ません。
上記の図からも分かる通り売上、利益共に年齢が若い程増収、増益の比率が高くなっています。このことは前項でみてきた新規への取組や企業風土とも密接に関わっているはずです。
それにしても、こうも綺麗に経営者の年齢が若いから業績が良いという結果になるものなのでしょうか。いささか出来過ぎのグラフのような気がしてしまいます。(穿った見方ですいません)
4.まとめ
これまでみてきたように経営者の年齢が若いほど新しいことに挑戦する度合いが高く、挑戦を許容する企業風土があるといえます。また、同様に経営者の年齢によって企業業績に違いがあることも分かりました。
ただ、必ずしも全ての企業や経営者に当てはまるわけではないと思っています。それでも、経営者の若返りは企業の業績向上や存続においては需要なファクターであるとご理解いただけたのではないでしょうか。
そして早期の事業承継を行うことが日本を救う一つの道なのかもしれません。
第5回コラムでは事業承継で経営を引き継ぐ後継者がイノベーションを起こすためのポイントについて説明していこうと思います。